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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)91号 判決

上告人

河西仲藏

被上告人

石田すみ子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由について。

所論の土地(字外鼻弦四二三番ノ七)は自作農創設特別措置法により、農地委員会の賣渡計画に基いて、上告人が賣渡を受け、その所有権を取得するに至つた事実は原判決の認定するところであるが、これに対して、被上告人は鳥取縣知事を相手取り、右土地に対する農地賣渡処分取消の行政訴訟を提起し、目下鳥取地方裁判所で審理中であることも、また、原判決の認定した事実である。しかも、原判決は本件仮処分の経過並びに上告人がその係爭中に右土地を買受くるに至つた経緯からみて、右行政訴訟も必ずしも、被上告人勝訴の見込なきにしもあらずとするものであつて、してみれば、右行政訴訟の帰趨如何によつては、上告人の右土地に対する所有権の取得、從つてこれに基く被上告人の右土地に対する耕作権の消滅は未だ確定不動のものとは速断し難く、被上告人の置かれた斯樣な法的地位も尚本件仮処分による保護に値する利益と認められるから、上告人の主張するごとく右農地賣渡の処分をもって直ちに本件仮処分取消の特別事情とすることはできないと判断した原判決に、所論のごとき違法ありとすることはできない。また、原判決は、本件仮処分によつて、被上告人の耕作権に関する私法上の地位を保全する必要ありとするものであつて、所論のごとく、右行政訴訟の結果を保全せんとするものでないことは原判文上、明らかである。

尚、被上告人の本件土地耕作権の讓受について、農地委員会の承認を得ていないとの事実は、上告人は、原審において、本件仮処分取消の特別事情として、これを主張した形跡はなく、從つて原審も、その事実の有無等については、何らこれを確定していないのである。從つて、この点に関する上告理由も、また、採用することはできない。

よつて、民事訴訟法第四〇一條、第九五條、第八九條を適用して主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(霜山 栗山 小谷 藤田)

上告代理人山下勉一の上告理由

原判決は本件土地中字外鼻弦四百二十三番ノ七の土地が自作農創設特別措置法によつて上告人が賣渡を受けその所有権を取得し從つて被上告人の耕作権が消滅したことを認め乍らその取消の行政訴訟が提起せられ審理中であるというので被上告人の耕作権消滅は確定不動のものとは速断し難く斯樣な法的地位も仮処分による保護に値する利益と認められると判示した。

しかし仮処分は係爭物に関するものであると、仮の地位を定めるものであるとを問わず所謂保全処分であつて本案判決の執行を保全するために爲されるものである。而して本件仮処分事件に対する本案事件は鳥取地方裁判所昭和二十一年(ワ)第四四号土地立入禁止請求事件であつて前記行政訴訟事件(昭和二十三年(行)第一号農地賣渡処分取消請求事件)ではない。前記土地に付仮に被上告人に耕作権が岩松から贈與せられたとしても措置法に依る賣渡処分に依つて耕作権は消滅し消滅によつて生じた損失を政府に請求する権利しかないのであるから本案事件に付少くとも該土地に関しては勝訴の判決を得られないことは明かである、斯樣な場合金銭賠償によつて仮処分権利者が終局の目的を達し得べきことは疑いのないところである。

原判決は取消の行政訴訟が係属中であるから被上告人の耕作権消滅は確定不動のものではないというけれども被上告人の耕作権の讓受けに付ては農地委員会の承認がないから絶対に勝訴の見込なきものである。そこで被上告人は鳥取縣知事に対し耕作権讓渡承認請求事件を提起しているが行政廳に対し意思表示を求める訴訟の許されないことも疑いのないところであると信ずるから之も勝訴の見込のないことは明らかである。故に前記賣渡処分取消請求の行政訴訟事件の判決で被上告人の耕作権復活は到底望むべくもない。

のみならず右取消の行政事件は本件仮処分事件の本案事件でないから仮に行政事件で被上告人の耕作権が復活するとしても本案でない他の事件の判決の執行を保全する必要はない。否保全すべからざるものである。この点に於て原判決は審理不盡若しくは理由不備の違法を免れることはできない。破毀せらるべもきのと信ずる。 以上

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